駐在員レポート
北海道と中国との交流について
2012.3.30
日中経済協会 上海事務所 北海道経済交流室長
田邊弘一
【はじめに】
2011年12月15日、日中経済協会上海事務所の中に、北海道経済交流室が設置され、北海道と中国との経済交流の促進に関する業務をスタートした。北海道経済交流室の設置は、高橋北海道知事が2010年の上海万博開催時に訪中した際、上海市人民政府幹部との面談の中で、「北海道(ベイハイダオ)は中国の中では知名度が高いので連携したいのだが、北海道サイドの窓口が上海にないのが残念」との上海側の発言が設置のきっかけとなった。この発言を受けた北海道が協会と折衝を始め、昨年11月より小職が道庁から協会に派遣され、12月の設置にいたったものである。
本稿では、北海道と中国との間における、経済面を中心としたこれまでの交流についてレビューするとともに、今後、北海道経済交流室を中心にどのように交流拡大を図っていこうと考えているか述べたい。
【これまでの北海道と中国との交流】
北海道では、現在までに5カ国7地域と友好交流の協定等を締結し、さまざまな交流を推進してきている。このうち中国とは、1986年に黒龍江省との間で友好提携を調印し、これまでに農林水産業や文化、スポーツ、医療など、様々な分野での交流を行っている。
昨年は友好提携25周年の節目の年であった。9月の黒龍江省代表団の来道に続き、10月には北海道代表団がハルビン市を訪問し、「(相互に)友好の精神に基づき支え合うこと」や「両地域の橋渡し役となる人材の育成に努めること」などを盛り込んだ「友好提携25周年の覚書」を取り交わした。これまで培ってきた友好・信頼関係を基に、食品加工や環境などの分野を中心に、今後、実質的な交流の拡大に向けた取組を推進することとしている。
このほか、北海道では、「商工業その他の分野における長期的な経済交流が円滑に行われるよう協力する」旨の覚書を、中国の東北3省(遼寧省、吉林省、黒龍江省)各省と1989年に締結し、これまで双方の代表団の派遣・受入等をとおして、投資説明会・商談会や、企業視察、意見交換などを実施してきている。
また、北海道では、道内金融機関との人事交流として、大連と上海にある銀行駐在員事務所に2005年から職員を派遣しており、取引先企業等の中国への事業展開支援などの業務に携わってきている。これまでに2カ所の銀行駐在員事務所にそれぞれ4人の職員派遣実績があり、北海道に関する情報発信等の機能に加え、人材育成の点からも有益なものであると考えている。
この他、道内の市町村では、1980年の札幌市と遼寧省瀋陽市との友好提携締結をはじめ、これまでに計11市が中国の省・市と友好提携を結び、それぞれ交流事業を推進してきている。
【北海道の経済状況と中国への事業展開】
日本の貿易収支が、欧州債務危機や円高等による輸出の減少と、原発停止による火力発電用液化天然ガスの輸入増等により、31年ぶりに赤字になるなど、日本経済の先行きが不透明な時代となっている。北海道でも、昨年3月の東日本大震災とその後の福島原子力発電所での事故に由来する風評被害に加え、景気の長期低迷やそれに輪をかける円高等の影響があり、北海道経済には強烈な逆風が吹いている。
北海道では、外国及び他都府県との財貨・サービスの移輸出入の合計である域際収支が2009年度で1.5兆円という大幅に入超状態となっており、経済の自立を目指して、移輸出をいかに拡大させるかが大きな課題となっている。
海外との貿易においては、2010年で約8,000億円、2011年で1兆1、600億円の輸入超過となっている。こうした中、北海道では、海外における道産品の販路開拓や観光客誘致等による本道経済の活性化に向けて、他都府県に優位性を有する食と観光、二つの分野を重点戦略分野として位置づけ、東アジア地域を中心に事業展開を図ってきている※1。このうち、中国がいずれの分野においても極めて重要な位置づけとなっており、今後、北海道経済の活性化に向けて、北海道経済交流室と北海道庁との連携のもと、道産品の販路拡大と観光客誘致に向けて、大きな一歩を踏み出していきたいと考えている。次項以降、それぞれの分野について、現況と北海道の取組について概観したい。
【道産品の販路拡大】
北海道の貿易構造は、基本的に大幅な入超状態となっており、2010年で約8,000億円、輸入額が輸出額を上回っている※2。北海道経済にとっては、この差を埋めるために、いかに輸出を振興していくかが大きな課題となっている。
北海道からの輸出の最大の特徴は、全体に占める食料品の割合が高いこと※3であり、こうした強みをさらに高めていくことが求められている。特に中国への輸出については、2010年で約622億円のうち、サケを中心とした「魚介類及び同調整品」が約183億円と3割を占めている。これまでは、丸ごとのサケが中国に輸出され、切り身に加工されて欧州など第三国や日本への再輸出に回るケースが多かったが、中国での所得水準の向上に伴って、安全・安心で高品質な北海道産の食材や加工食品について、中国国内での直接消費に向けた販路拡大が必要になってきていると考えている。
北海道では、海外への道産食材の輸出振興策として、例えば2009年の上海万博開催に合わせて行った北海道物産展等での道産食材のPRに加え、輸出用商品を海外向けにいかに売れやすいものとするか、商品の新たな販路の開拓をいかに図るか、といった観点からも、商品やパッケージの改善への助言や商談会の開催といった取組を推進してきており、北海道経済交流室の設置により、こうした取組を中国国内の関係者と連携を取りながら、より強力に推進していくことが可能になるものと考えている。
【観光客の誘致】
外国から北海道への観光客数は、2010年度で約74万人となっており、この内中国からの観光客数が約13.5万人と約2割を占めている。2008年度時点では、約5万人、7%だった※4ことを鑑みると、中国経済の急速な発展だけでなく、2009年7月の個人観光客への査証発給開始や、北海道を舞台とした映画「非誠勿擾」のヒットも追い風として、飛躍的にその数が増えてきている。
中国人の観光消費額単価は一人あたり約14万円※5という調査結果もあり、また、観光消費は経済全体にも高い生産波及効果を有していることから、観光客誘致は北海道にとって重要な政策課題となっている。これまでも、北海道観光振興機構との連携の下、知事や副知事による北京、上海、広州等へのトップセールスを行い、北海道への送客を働きかけているほか、多彩な媒体を使ったPR、旅行代理店担当者はじめメディア関係者の北海道への招聘や商談会開催など、幅広い取組を進めてきている。
2010年7月と2011年8月の中国人向け個人観光ビザに関する要件緩和も踏まえて、個人観光客を対象とした北海道PRにも重点を置いており、その一例として、さまざまなメディアを活用したPRに加え、中国での人気ブロガーを道内に招待し、ブログ発信を通じたPR事業を2011年度新たに進めている。
観光客誘致にあたっては、道内と中国各地を結ぶ直行便の有無が大きく関わってくる。北海道と中国本土の間の国際航空路線は、現在までに4路線が開設されており、2011年では延べ7万5千人以上が利用しているが、東日本大震災などの影響により、各路線で減便や運休が行なわれ、対前年比で2割近く減少した。現在も、瀋陽線は昨年5月からの運休が継続している。
しかし、昨年8月から運休していた大連線は10月末に再開し、減便していた上海線も週5往復に回復している。北京線は現在も減便が続いているが、今年の3月末からは週4往復に回復し、さらに7月からは週5往復に増便する予定となっている。旅客数についても上海線及び大連線は昨年10月から、北京線は11月から、前年比で増加に転じている。
北海道では、引き続き、「広州-札幌線」などの新規路線開設、既存路線の拡充及び運休路線の再開に向けて、経済界などと連携しながら、トップセールスなどの誘致活動を強化してまいりたいと考えている。
また、新千歳空港における中国など一部外国航空会社に対する乗り入れ制限(航空自衛隊千歳基地と隣接していることによる防衛上の理由によるもの)の緩和について国に要望していくなど、新千歳空港の機能強化についても取り組んでいく。
【道内企業のビジネス展開支援】
JETRO北海道の調査によると、これまでに道内企業71社が中国の97拠点に、現地法人設立や駐在員事務所設置などの形で進出している。このうち、上海市(21拠点)、大連市(17拠点)、広州市(6拠点)が上位3地域となっている。
北海道では、道内企業の貿易や海外展開などを総合的に支援することを目的に、2008年9月に北海道国際ビジネスセンター(HIBC)※6が設置された。HIBCには、全般的な相談業務等を担当するコーディネーターに加えて、中国アドバイザーが配置され、道内企業からの海外展開に向けた相談対応にあたっている。この2年間では相談の8割以上が中国関連であり、相談体制を強化するため、2011年12月にサブアドバイザーが追加で配置された。 北海道経済交流室では、HIBCとの連携を深めて、道内企業が中国へのビジネス展開を図る上でのサポートを実施していく。
【2012年度の取組等について】
2012年は日中国交正常化40周年の節目の年であり、北海道としても、北海道経済交流室の設置効果も最大限に活かしつつ、中国との経済交流に弾みをつけて行きたいと考えているところ。
北海道経済交流室が中国国内で活動を進めていく上では、何よりも人と人とをつなぐネットワークづくりが必要と考えている。このため、2012年度から2年間、中国国内の4都市で地方政府関係者や道人会関係者等との意見交換会の開催や展示会への共同出展などを実施する予定である。
観光客誘致の側面では、テレビや新聞に加え、ウェブサイトや微博(ミニブログ)なども活用したメディアミックスによる情報発信を推進するとともに、富裕層等を対象とした旅行博やMICE※7見本市への出展などを、北京や上海、大連などで実施していく予定としている。
また、道産品の販路拡大に向けては、業務系・小売り系のバイヤーを対象とした商談会の開催や、道産食材を使用した料理フェアの開催を予定している。
設置されたばかりの北海道経済交流室ではあるが、協会本部並びに中国国内各事務所の人脈やさまざまなノウハウも最大限に活用させていただき、「北海道(ベイハイダオ)」の中国国内でのプレゼンスを高め、少しでも中国との経済交流の発展に結びつけていければと、決意を新たにしているところである。
※1 2010年策定「海外との経済交流推進方策」
※2 北海道の貿易額については、道内の港(港湾、空港)をとおしての直接の輸出・輸入額を「北海道貿易」として函館税関が発表しており、その数値を使用している。実際には、道産品が本州の港に集約され、海外に輸出されているケースも多々あるが、統計上の数値としては把握できない。
※3 北海道11.1%、全国0.6%。(いずれも2010年、北海道経済産業局「目で見る北海道貿易2010」より。
※4 数字はいずれも北海道経済部観光局発表の「北海道観光入込客数調査報告書」より。なお、当該調査については、2010年度より新しい方式で入込客数を推計しており、2008年度の数値については、この新方式で算定し直した数値(参考値)を使用している。
※5 観光消費額については、「第5回北海道観光産業経済効果調査」による。
※6 Hokkaido International Business Centerの略(頭文字)
※7 Meeting, Incentive travel, Convention, Exhibition/Eventの略(頭文字)